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once 54 愛に満たされて

***54*** 

彼女の中に最後まで入ると、有芯は溢れて流れる愛しい人の涙を見つめた。

「初めてだね・・・私たち」

「そうだな・・・やっとひとつになれた。・・・泣き虫」

優しい声でそう言い、自分の涙にキスをする有芯が愛しくて、朝子は微笑んだ。

その笑顔を見た瞬間、強い欲望が有芯を駆り立て、彼は気付くと激しく腰を動かし、朝子の白い肌に歯を立てていた。彼女の首筋に真っ赤な跡をつけても、彼女を乱し声をあげさせていても、あとからあとからわけのわからない欲望が押し寄せてきて、有芯は焦った。

何故・・・抱いているのに・・・気持ちいいのに・・・

朝子は脳をがくがくと揺さぶられ強い快楽に呼吸を荒げながら有芯を見つめた。彼の焦りを見て取ると、彼女は上体を起こした。

「待っ・・・て、有、芯・・・」

「待たない」有芯は乱暴に朝子を押さえつけたが、彼女は静かに言った。

「落ち着いて。・・・焦りすぎよ? 一瞬で終わらせる気?」

「・・・・・」

そうだ。せっかくこうして抱き合えたのに、何をしているんだ、俺は・・・。

言葉を失った有芯の手をどけ、朝子が体を起こした。

「離れないで・・・」あまりに情けない自分の声に、有芯は自分でびっくりした。

朝子はにこりと笑い、「誰も離れるなんて言ってないわ」と言うと、繋がったまま有芯に跨り、ゆったりと彼を押し倒した。朝子が乱れた前髪をかき上げ、髪を留めていたピンを外すと、柔らかな髪がはらりと形のよい乳房にかかった。

「ね、愛し合おう?」

言うなり、朝子がゆっくりと動きだし、有芯は頭が真っ白になった。

「あ・・・ん・・・・」

気付くと女の子のような声を出していて、有芯は恥ずかしくなり、ごまかそうと朝子を見上げたが、自分の上で目を伏せ胸と髪を静かに揺らしている朝子にくぎ付けになった。

綺麗・・・。

懐かしい感覚だった。そう、これは・・・初めて朝子に恋をしたときのような。

有芯は朝子の肉体を感じ、ただ貪るだけでない、朝子を与えられ満たされていくようなセックスに身を任せた。次第に焦りが消え、替わりに胸を満たしたのは朝子への愛情だった。

俺も・・・朝子を満たしたい・・・。

どうすれば満たしてやれる? どうすれば・・・?

今まで数え切れないほど女を抱いたはずなのに、有芯は朝子をどう抱けばいいのかが分からず困り果てた。彼が両手でそっと朝子の乳房に触れると、彼女は息を弾ませながら微笑んだ。

「困った顔して・・・どうしたの? ・・・良くない?」

「良過ぎて・・・自信無くすくらい」

有芯が正直に言うと、朝子は少し驚いた顔をし、ゆっくりと彼の体の上に脱力していった。




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